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第五次聖杯戦争より遡ること数年、
封印指定の執行者たるバゼット・フラガ・マクレミッツに命令が下った。
任務は標的の捕縛。そして現れた敵の駆除。
標的は死徒──敵は代行者。
かつて時計塔に所属し、くだらない野望から人を捨てた魔術師と、死徒を狩らんとする代行者達。
バゼットは脳裏にある代行者の影を描きつつ、その街に向かった。
雨降りけぶる死都。
戦いの火蓋が切って落とされる。

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呼ばれて振り返る。背の高い男が、私を見下ろしている。この男──父が私をフルネームで呼ぶとき、必ずといっていいほど何かよくないことが起こる。とんでもない大失態を仕出かしたり、近所で人死にが出たり。前にこの男が出たときは、この男自身が死んだ。私は辟易として、頭を振った。
「どうかしたかね?」
私が話を聞いていないと思ったのか、今回の執行について詳しい説明をつらつらと口にしていた男が訝った。
「いえ」
私は直立不動に戻ると、男をじっと見た。一応上司のような存在になるらしいが、私は名前すら知らなかった。
「今回は複数名を同時に送り込むことになったが、間違って撃たないようにしてくれたまえよ」
なのにこの男は私の全てを知っている。怒りが込み上げてくる。銃口を上向けたマスケット銃が唸るのが聞こえた。よしよし大人しくしていろきかん棒め。もうじき嫌というほど殺せるんだから。
「生死問わず。なら問題無い」
私は銃身の点検と掃除を済ませつつ、じっと息を殺して薄汚い路地裏でしゃがみ込んでいた。
最悪の展開だった。三名送り込まれた協会が、先に現地に入り込んでいた教会の部隊とかち合った。
「連中、俺達を見るや攻撃ですか。こんなもんなんですか? でもひどい。ここには吸血鬼がいるんだ。俺達を攻撃してくるより、先に吸血鬼を殺っちまったほうがいいのに」
徐々に包囲を狭めてくる教会のエクスキューターどもの気配を肌で感じるのか、名前も知らないひよっこ魔術師が言った。
私の顔を見て、はぁ、とため息まで吐く。
「もう一人はどっか行っちゃうし」
確かにやたら血の気の多いもう一人の魔術師は連中を見るや飛び出していった。死んでるさとっくに、と小さく呟くと、ひよっこは顔を青ざめさせた。
「死んでるって?」
先ほどでかい魔術が使われたのを感じた。が、それは断末魔だろう。あまりにも指向性の無い、くだらない魔術だった。
「そんなことよりもだなガキ。吸血鬼は殺るんじゃない。とっくに死んでいるんだからな。そういうつまらないことを言っていると、笑われる」
ガキ、と呼ばれて傷ついたのか、私よりもいくつか年上に見えるひよっこは口を尖らせた。私のほうが先輩で、実力もまるで違うのだから、ひよっこは反論できやしない。
「誰に笑われるってんですか」
「私に」
ニヤっと笑ってやる。ひよっこはますます青ざめた顔で、俯いた。
マスケット銃に特製の弾丸を込めて、私は立ち上がった。ようやく、連中が私の射程距離に入った。私が弾丸を確実に当てられる距離は三百メートル。マスケット銃はマスケット銃の形をしているだけの魔術的媒体に過ぎず、その精度はどんな銃よりも高い。こんなものを、何百年も前の戦争で使用していたというのだから、私の一族の業は深い。
現在代行者どもは半径二十五メートルの円陣で私達を包囲している。私が最も得意とするレンジは五十メートル。つまり円の端から端まで、私は縦横無尽に戦える。
「ばかだな。私相手に円陣なんて可笑しくて可笑しくて涙が出そうだ」
先ほどの笑みを刻んだまま、私は膝を曲げた。跳躍するためだったが、その前にひよっこも立ち上がっていた。その手には、渦を巻く青白い風があった。
「まったく。俺は接近戦なんてできませんからね。あの人接近戦型だって言ってたのに。期待してたのに、壁くらいにはなるかって」
おや、と私は思った。さすが執行に抜擢される程度には、変人と言えるらしい。他人なんて興味ない。そんな目が、私を見ていた。
私は笑い返してやる。それを見て、ひよっこはやっぱり青ざめた。
「その顔、怖すぎ」
私は地面を蹴った。地面を蹴った瞬間に、世界が引き千切れる。そして私は、一人の代行者の背後に立っていた。私の世界は半径五十メートル。だからその範囲内なら、私はどこにでも現れるし、どこにでも行ける。弾丸を込めた場所から半径五十メートル。それが、私の世界。
まだ私の存在に気付いてもいない代行者の後頭部に銃を突きつける。魔力を高め引き金を引くと、赤い閃光が代行者を干物にした。
「フ、アハ」
私の弾丸は魔力を吸い取る魔弾。あんまり多くの魔力は吸い取れないが、大抵の魔術師は一撃で動けなくなる。魔力が無ければ、消し飛ぶだけだ。
異変に気付いた代行者が陣を解消する。それぞれが得物を構え、獲物を狙う。しかし、遅い。私は地面を蹴り、即座に次の弾を装填した。マスケット銃の嫌な所は、装填が面倒くさいこと。父はこのマスケット銃に愛着を持っていたらしいが、私はこれが大嫌いだった。かねてから、私は装填が楽なマガジン式の魔銃を作ろうと思っていた。
再び代行者の背後に立つ。赤い閃光が弾ける。今度は魔力を持たない代行者だったらしい。粉微塵に吹き飛んだ。
「アハハハハ!」
地面を蹴る。弾丸を装填する。
大して強くない。雑魚同然の代行者達だ。が、代行者は面倒臭い。全員同じ格好をしているくせに、たまにとんでもない奴が紛れている。
腹に暖かいものを感じて、やっぱりと思った。腹を掠めた銀弾。リボルバーを構えた代行者が一人、私の次の出現地点を予測していた。黒鍵が降り注ぐ。私はニヤっと笑って、地面を蹴った。敵はあいつだ。
右のほうで、小さな竜巻が起きていた。ひよっこの魔術だろう。破壊力はそれなりにありそうな代物だった。だが残念ながら、それではムリだろう。私はひよっこを狙う代行者の背後に出現し、引き金を引いた。
代行者がミイラになる。笑いが止まらない。可笑しくて楽しくてしょうがない。もっともっともっともっと殺したい。すぐに黒鍵が追いすがってくる。どうやら魔術使いもいるらしい。
引き金を引く。装填する。引き金を引く。装填する。そうしているうちに、向こうの弱い連中は消えていた。残ったのは、ただ背後に回るだけでは殺せない輩。六人。めんどくさい。けどもっと殺したい。私は笑って、地面を蹴った。
機動戦をする魔弾使い。そう判断されたらしい私の接近を許すような雑魚はもういなかった。背後を取ったと思えば、銃口がこちらを向いている。黒鍵が既に飛んできている。めんどくさいめんどくさい。
「アハハハハハハハハハ!!」
地面を蹴って、一人を殺して、少し物陰に隠れた。疲れた。私は一つの魔術だけを突き詰めた存在。ただ純粋に、たった一つの魔術を行使できるよう調教された存在。それが半径五十メートルの世界で、魔弾の力は代々受け継がれるもの。私の肉体はナイフで切られればすぐに血を流すし、銃弾の一発でも食らえば、普通の人間と同じ反応を起こす。ついでに、自分で言うのもなんだけど、体力がなかった。
息切れする体を落ち着かせて、私は首を傾げた。なにやら騒がしい。私はここにいるのに銃声がこだましている。ひよっこかと思ったが、そのひよっこは目の前でなにやら死んでいる。何かおかしい。思った瞬間、ひよっこの体が動き出した。反射的に飛び退いて、銃を構えた。
「何するんですか。オレ、ですよ」
こいつに、胸を三本もの黒鍵で突き刺されて動ける力があるとは思えなかった。私は迷わずトリガーを引いた。ひよっこが干物になる。私は冷静になってしまった自分に辟易しながら、じっと周囲の気配を注意深く窺った。代行者達も大人しい。銃声も止み、辺りは奇妙な静寂に包まれた。
私が生きているのは知っているはずで、協会の人間を取り逃がすほど優しい連中ではない。だとすれば、何が起きたか想像するのは容易い。
「死徒か……」
唐突に、本業の方に戻されてしまったらしい。しかも、どうしたことか。代行者達の大人しさから見るに、全員やられたのではないだろうか。
それに、異常な気配が周囲に満ち満ちていた。時刻は真夜中だ。なのに、人の気配だらけ。そこらじゅうに人がいる。人人人人。人の海。
私は深呼吸をした。地面を蹴って、周囲を見渡せるビルの屋上に降り立った。目を疑わざるを得ない。私の視界を埋め尽くすのは、矢張り人の海。それぞれが、包丁やナイフや銃などで武装している。市民の反乱? いや、これじゃ氾濫だ。などと考えている暇もなく、私は銃を構えた。しかし、どこを撃つ。どう見ても、アレらはただの人間だ。吸血鬼でも死者でもない。私は敵は撃つが、ただの人は撃たない。
膝立ちの体勢で、私はじっと人の海の中を目を凝らして見た。何を撃てばいい。どこを撃てばいい。明らかにこれは死徒の攻撃だ。けれど、その対象はどこにも見えない。
「先ほどの狂態は影も形もなく。君は狂っているようで正常なのか」
唐突に背後に立たれるという経験は、初めてだった。私は地面を蹴り、そいつの背後に回り返した。トリガーを引こうとして、矢張り引けなかった。こいつも、ただの人。
「矢張り正常か。面白くもない。君は、私を失望させたよ」
ずぶ、と背後から心臓を握り潰された。吸血鬼の癖に、噛まないのか。私は、何かが私の中に入り込んでくるのを自覚しながら、それが魔力であることに驚いていた。吸血鬼ではないのか。ただの魔術師がこんなことをしているのか。
目的が解らずに、私は小さく舌を打った。舌打ちと一緒に、血が溢れた。霞み行く視界の中で、私はニヤ、と笑った。
「魔銃──作りたかったなぁ」
L96A1がいい。スナイパーライフルを持っているのに突然背後に現れたら、とても楽しいだろうって、ずっと思ってた。けどそれは叶わないらしい。私は、死ぬようだから。


ジャンル:TYPE-MOON作品二次創作ヴィジュアルサウンドノベル
メディア:CD-ROM
作品形態:FLASH
頒布開始日:2006/12/31
価格:1000円
ノベルとしては短編くらいの文の量となります。
TYPE-MOONに愛を。
OS:Windows 98/Me/2000/XP
Mac OS X 10.3/10.4
CPU:Pentium Ⅲ 1GHz以上
メモリ:384MB以上
HDD容量:600MB以上
画像解像度:800×500ピクセル
音声:Win-DirectSound
Mac-標準のサウンドシステム
シナリオ:生ハム
絵:衣谷カイ
プログラム:NAVE
効果音&音楽:Eru
音楽:(50音順)
あず♪ /
Godspeed /
supply /
JOYH-TV /
鷹 /
ゆう /
RIO(Chorus : Urthea) /
Ruhe
サウンド監修:Mizuki

全てオリジナルとなるThe Law of Contradictionの楽曲を
低音質フルバージョンで公開(mp3:128kbps)
「The Decisive Battle」
制作者:Godspeed
「Anxiety of Bazett」
制作者:supply
「The Forbidden」
制作者:RIO
まだまだ追加していく予定です。

紹介していただける御方は、よろしければ以下のバナーをご使用下さいませ。

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